連結初心者のための実務で使える連結決算

悩める連結決算担当者のために実務で使える連結決算知識を書いてきます。

【連結決算ここが大変】簿記の連結会計と実務の連結決算との違い(その6:棚卸未実現消去)

今回は棚卸未実現消去について簿記と実務との違いをお話させていただきます。
過去の記事で実務で大変だと感じている項目の順番は以下の通りとお話させていただきました。
 1.内部取引消去
 2.在外子会社の換算、単純合算
 3.個別修正(資産負債の評価差額、退職給付調整など)
 ---------------------------------------------------------------(超えられない壁)
 4.棚卸未実現消去
 ---------------------------------------------------------------(超えられない壁)
 5.資本連結
 6.固定資産未実現消去
 7.貸倒引当金の調整

※関連記事
csb47.hatenablog.jp

 棚卸未実現消去も実務では大変な項目です。その理由は以下の通りです。

①期末の棚卸資産のうちグループ会社からの仕入分の金額の算出が大変である。
簿記の連結会計では予め期末の棚卸資産のうちグループ会社からの仕入分の金額は記載されていますが、実務の連結決算ではこの金額を何らかの方法で集計する必要があります。しかし会社が保有している棚卸資産の種類は非常に多いため、どの棚卸資産がグループ会社から仕入を行ったものであるか判別するのは非常に煩雑です。
さらに例1のように在庫データから各グループ会社の在庫うち一部がグループ会社から仕入を行ったものあるケースがあります。
例1)製造業の在庫データイメージ
※グループ会社の仕入分の金額は製品「BBB」の材料費aのみ(20)である。

製品名 棚卸金額 内訳
材料a

材料b
・・・
AAA 100 10 50 ・・・
BBB 200 20 50 ・・・
CCC 300 30 50 ・・・
DDD 400 40 50 ・・・
EEE 500 50 50 ・・・

また例2のように同一の商品をグループ会社及びグループ外の会社の両方から仕入れを行っていたケースもあります。
例2)小売業の在庫データイメージ
※グループ会社の仕入分の金額は商品「bbb」(200)の一部である。

商品名 棚卸金額
aaa 100
bbb 200
ccc 300
ddd 400
eee 500

棚卸資産の利益率を算定するのが大変である。
棚卸資産の利益率は単一の製品・商品しか販売していないのであればPLの売上総利益率を使用できますが、ほとんどの企業は製品・商品を一定のグループ別に分類した単位で棚卸資産の利益率を算出する必要があります。
グループ別の棚卸資産の利益率を会計システムから取得できるケースはほぼないので販売管理システムや原価計算システムから取得する必要があります。しかし多くの企業では例3のように販売管理システムや原価計算システムのコードが別々に設定されており、それぞれのシステムでどの棚卸資産グループに該当するか判断する必要があり非常に煩雑です。
例3)販売管理システムや原価計算システムのデータイメージ
※それぞれのシステムでどの棚卸資産グループに該当するか判断する必要がある。
原価計算システム)

製品コード 製品名 棚卸資産グループ
100 AAA Aグループ
200 BBB Aグループ
300 CCC Aグループ
400 DDD Dグループ
500 EEE Dグループ

(販売管理システム)

商品コード 商品名 棚卸資産グループ
A10 AAA-1 Aグループ
A20 AAA-2 Aグループ
B10 BBB Aグループ
C10 CCC Aグループ
D10 DDD Dグループ
E10 EEE Dグループ

③多段階の商流があった場合はさらに大変である。
単純にあるグループ会社から別のグループ会社に製品・商品を販売しているだけの場合は比較的シンプルですが、さらにまた別のグループ会社に販売しているケースになるとさらに複雑になります。同じ製品・商品の販売取引でも各グループ会社で①、②の作業を行うのは負担が大きいです。商流に在外子会社が含まれる場合もあり、その場合はさらに大変になります。

このように棚卸未実現消去は非常に大変であるため厳密な棚卸未実現の金額を算出できている企業はまずないと思っています。そのため棚卸資産未実現消去金額の計算をどこまで厳密にやるか(なるべく簡便化できないか)は監査法人としっかり話し合うことを推奨します。

次回は固定資産未実現についてお話させていただきます。
(次回の記事はこちら