【連結決算ここが大変】簿記の連結会計と実務の連結決算との違い(その5:内部取引消去)
今回は内部取引消去について簿記と実務との違いをお話させていただきます。
過去の記事で実務で大変だと感じている項目の順番は以下の通りとお話させていただきました。
1.内部取引消去
2.在外子会社の換算、単純合算
3.個別修正(資産負債の評価差額、退職給付調整など)
---------------------------------------------------------------(超えられない壁)
4.棚卸未実現消去
---------------------------------------------------------------(超えられない壁)
5.資本連結
6.固定資産未実現消去
7.貸倒引当金の調整
※関連記事
csb47.hatenablog.jp
個人的には上記の通り実務の連結処理で最も大変なのは内部取引消去であると思っています。連結決算の実務経験がある方の多くは内部取引消去の大変さを痛感しているのではないでしょうか。内部取引消去が大変な理由は以下の通りです。
①内部取引の照合差異の調整が大変である。
簿記の連結会計では販売(債権)側の金額と購入(債務)側の金額は一致していることが前提となっていますが、実務の連結決算では販売(債権)側の金額と購入(債務)側の金額が一致することは滅多にありません。この差異のことを内部取引の照合(突合)差異といいます。
内部取引の照合差異の原因は主に以下の通りです。
・どちらかの会社の会計処理が誤っている。
・そもそも取引先別の金額を適切に把握できていない。
・未達取引、期ずれがある。
内部取引の照合差異が発生する度に原因の調査を行う必要があり、これが非常に煩雑な作業とあります。多くの場合、個別会計システムの仕訳帳や販売管理システムの帳票など単体決算資料に遡って調査することになります。また内部取引の照合差異の調査の過程で単体決算の修正が必要なことが発覚し、大きな手戻りとなります。
実務の連結決算では内部取引の照合差異を完全に無くすことまでは求められていませんが、一定の金額までに収める必要があります。残った差額はどちらかの会社の金額を正として内部取引消去の仕訳を計上します。
②内部取引照合対象の勘定科目パターンがバラバラである。
例1のように販売(債権)側で計上する勘定科目と購入(債務)側で計上する勘定科目と一定の対応関係があれば内部取引の照合差異が発生してもその原因の当たりをつけやすいです。
例1)内部取引照合対象の勘定科目パターンが適切に整備されている場合
※「営業債権債務」と「商品販売取引」のみに照合差異が発生している。
照合パターン名 |
販売(債権)側 |
金額 |
購入(債務)側 |
金額 |
---|---|---|---|---|
売上債権債務① | 売掛金 | 100 | 買掛金 | 100 |
売上債権債務② | 受取手形 | 300 | 支払手形 | 300 |
営業債権債務 | 未収入金 | 400 | 未払金 | 350 |
長期金銭債権債務 | 長期貸付金 | 800 | 長期借入金 | 800 |
商品販売取引 | 売上高 | 500 | 売上原価 | 300 |
利息取引 | 受取利息 | 200 | 支払利息 | 200 |
しかし例2のように販売(債権)側で計上する勘定科目と購入(債務)側で計上する勘定科目の対応関係がバラバラであると内部取引の照合差異の原因の調査が大変になります。
例2)内部取引照合対象の勘定科目パターンがバラバラの場合
※「流動資産負債」と「PL取引」に照合差異が発生している。
照合パターン名 | 販売(債権)側 の勘定科目 |
金額 | 購入(債務)側 の勘定科目 |
金額 |
---|---|---|---|---|
流動資産負債 | 売掛金 | 500 | 買掛金 | 100 |
未収入金 | 400 | 未払金 | 600 | |
未払費用 | 100 | |||
PL取引 | 売上高 | 800 | 売上原価 | 100 |
支払手数料 | 200 | |||
賃借料 | 300 |
③在外子会社との内部取引照合が大変である。
例3のように在外子会社の内部取引の照合差異の調整は換算レートの関係からさらに煩雑となります。
例3)購入(債務)側が在外子会社の場合の内部取引照合
照合パターン名 | 販売(債権)側 の勘定科目 |
金額 (円) |
購入(債務)側 の勘定科目 |
金額 (ドル) |
---|---|---|---|---|
商品販売取引 | 売上高 | 500 | 売上原価 | 4.5 |
利息取引 | 受取利息 | 200 | 支払利息 | 2 |
簿記の連結会計ではグループ会社間の損益取引は取引日レート(HR)で換算するのが原則ですが、実務の連結決算では取引数の多さから取引日レート(HR)で換算するのは現実的ではありません。そのため、期中平均レート(AR)で換算する場合がほとんどですが、期中平均レート(AR)で換算してしまうと内部取引の照合差異の原因が①に記載した理由であるか換算レートによるものであるのか調査するのが非常に煩雑となります。
このように多くの企業では内部取引照合に非常に苦労しており、その原因の大部分は単体会計にあります。理想を言えば内部取引照合の効率化のためには単体会計の運用を見直しがほぼ必須となります。